睡眠について

まさに酷暑の夏でした。九月になってようやく涼しさを感じるようになりました。
今年のような熱帯夜が続いた場合は特別だとしても、現代人は「睡眠不足」の人が多いようです。

「睡眠不足」といっても、サッカーやゴルフのテレビ観戦あるいは夜あそびなどからくる「睡眠不足」は確信犯的なものであり仕方ないとしても、なかなか寝つけない、また、寝入ってもすぐ目が覚めるといった、いわゆる「不眠症」といわれる症状に悩んでいる人は想像以上に多いようです。

結果「疲れが取れない」、「体がだるい」などつらいものですよね。

ある精神科医の統計によると、不眠を訴える人の数は男女とも40代が最高で、男性では30〜60歳代、女性では30〜70歳代が全体の約8割を占めているそうです。

その不眠症は次の2つに分けられています。
●症候群性不眠……心臓疾患や心身症、ノイローゼなどの病気が原因で起こるもので、治療が必要になります。
●機会性不眠……精神的緊張や興奮、慣れない環境、騒音、暑さ寒さ、空腹感、コーヒーやお茶の飲み過ぎなどの原因からくるもので、生活を振り返り取り除かなければなりません。

なお、不眠を訴えて神経内科を訪ねる患者の8割以上が不眠症ではなく、自分で勝手に不眠症と信じ込んでいる、いわば「不眠恐怖症」といわれるものだそうです。

何らかの原因で眠れない日が続くと、「今夜もまた眠れないのでは……」という不安からますます不眠になるという悪循環を繰り返している状態です。神経質な人などは、このストレスが長く続くと症候群性不眠症へ移行してしまうケースがあるので注意が必要です。

不眠が続くようならば医者に相談するのがいいようですね。

ところで、人は一生のうち3分の1は眠っているといわれます。1日24時間でも足りないと思うのに、そもそも、人間は何の為に眠るのでしょうか。

人間だけでなく、すべての生物は生まれたときから自然にリズムを刻む「体内時計」が備わっており、陸上で生活する生物には光(太陽の出と入り)が深く関与しているのです。人間の場合、光が脳の「視交差上核(しこうさじょうかく)」というものに働きかけて体内時計が調整されることがわかっています。

さらに、人間の生体リズムに深く関わるのは2つの自律神経で、日中は体を活動的にする「交感神経」が優位になり、夜になると「副交感神経」にバトンタッチし、心身を休めて睡眠をとるのです。また、脳の最も奥にあり、脳に体の刺激を伝える「網様体(もうようたい)」も、睡眠と覚醒を担うといわれます。朝は光や音の刺激を網様体が脳に伝えるために活動し、夜になると網様体の働きが鈍るために脳が休息状態に入り、自然に眠くなるのだそうです。

この眠りがあるからこそ私たちの生活、健康が成り立っているのですね。

毎日決まった時間に寝て、どんなに遅く寝ても朝は必ず決まった時間に起き、休日はゴロ寝で過ごさないなど、体内時計のリズムを乱さないように心がけましょう。

それでは、睡眠時間って何時間必要なのでしょう?

1日8時間の睡眠が必要という説は、医学的根拠があるわけでなく、多くの人から統計をとった平均的な睡眠時間だそうです。睡眠時間には個人差があり、1日3〜4時間の睡眠でも大丈夫という人も少なくないようで、ナポレオンが有名ですね(ただし彼の場合はベッドでの睡眠が、と言われていますが)。必要な睡眠時間は遺伝的なものといわれ、中枢神経系の構造と体内の化学物質のバランスが遺伝子にプログラミングされるために個人差が出るといわれています。したがって、睡眠は「時間」よりも「質」のほうが重要なのですね。

なお、日本人約11万人の睡眠時間を調べたところ、7時間(6.5〜7.4時間)の人の死亡率が最も低く、それより長くても短くても死亡率が高くなることが約10年間の追跡調査で分かったそうです。

質のよい睡眠とは、1日の活動で疲れた脳細胞を回復させるとともに、肉体的な疲労の回復や健康増進に大きな効果があるもので、熟睡できて、目覚めたときにスッキリとした満足感が得られる眠りのことです。

また、理想的な睡眠があって、毎日午後10時から10時半、遅くとも12時までには眠りに就き、午前3時までの「睡眠のゴールデンタイム」の間はぐっすり眠るといいのだそうです。この時間帯に深い眠りが得られると、成長ホルモンの分泌を促し、子どもの体の成長を促進し、また大人の老化防止に効果があるそうです。この時間帯は脳細胞の休息・発育にとって大変貴重な時間ですから、できる限り子どもには眠ってほしいものですね。美容面からいっても、皮膚をつくり出す基底層の細胞分裂は、午後10時から午前2時ころがもっとも活発なことが確認されているようです。したがって、同じ5時間睡眠でも、午後10時から午前3時まで眠るのと午前3時から8時までに眠るのとでは、疲労回復などに大きな差が出てくるのです。大いに留意しておきたいところです。

それから、よくレム睡眠とかノンレム睡眠という言葉を耳にします。

レム睡眠とは浅い眠りのことで、体は眠っているのに、脳は働いている状態のことです。起きている間に見たり聞いたりしたことを、一時的な記憶から長期的な記憶にする為に脳が活動している状態のことで、起きている間の学習が多ければ多いほど、レム睡眠も増えるそうです。また、夢を見るのもレム睡眠の時だと言われています。

それに対して、ノンレム睡眠とは心身ともに深い眠りに入っている状態で、脳波の周波数が遅くなるなど、大脳の活動レベルが低下し、脳の休息に役立っていると言われます。

このレム睡眠とノンレム睡眠は約1時間30分間隔で繰り返されていて、浅い眠りのレム睡眠になる、4時間半後、6時間後、7時間半後・・・に起きると目覚めよく起きられると言われています。

それでは、スムーズに、「良い睡眠」に入るためにはどうしたら良いのでしょう。

●まずリラックスすることが一番大切です。ラベンダーやローズマリーの香りは心の緊張を解きほぐし、モーツァルトの曲は癒し効果があるといわれています。読書の秋、芸術の秋ではありますが、刺激の強いものは、神経が興奮してよい睡眠にはなりません。

●眠気は体の奥の深部体温というのが下がるときに催すそうです。(夏の夜が寝苦しいのは、この深部体温が下がるのを乱されるためです。)深部体温を下げるためには、いったん深部体温を上げると、その後、深部体温が下がっていく時に入眠しやすくなり、眠りの質も良くなるのです。深部体温を上げるためには、夕食の後に軽く散歩をするだけでもいいし、寝る前に37〜39度ぐらいのお風呂に20分くらい入るのも効果があります。しかし、熱いお風呂は逆効果です。刺激が強すぎて神経が興奮してしまうので、ぬるま湯で半身浴がいいのです。また、シャワーには交感神経を鎮静化させる効果があります。少し高めの水圧で、長めに浴びるとよいでしょう

●寝つきが悪いからといって寝酒に頼る人がいます。良い手段ではありませんが、催眠効果はあるので、就寝の30分〜1時間前までに、ゆったりとした気分でほろ酔い程度に飲むのがコツです。飲みすぎると神経が高ぶり寝つきが悪くなります。また、アルコールには覚醒物質が含まれているので、夜中に目が覚めるなど、眠りの質を悪くします。

●快適に寝るためには、室温22度前後、湿度40〜60パーセントがいいのですが、エアコンをつけっ放しで寝ると体温が奪われて、寝冷えの原因になり、また、体の機能が体温を維持しようと夜通し働くため、熟睡できなくなります。寝る1時間くらい前から室温を22〜23度にセットして、部屋と寝具を冷やしておき、寝るときに室温を25度くらいに設定し直し、タイマーを1時間位で切れるようにセットします。エアコンの冷気が直接体にあたらないよう、寝床の位置なども工夫しましょう。扇風機を使う場合も、布団から離れた位置にしたり、上方に向けて首振りにします。タイマーをセットして1時間以内に切れるようにするなどの工夫が必要です。

●食べ物にも注意しましょう。睡眠のためにはバランスのとれた食生活が基本です。良質のタンパク質を中心に、植物性脂肪と糖類を適度に摂り、ビタミン類とミネラルも必ず加えます。
特にビタミンB群を多く含む牛乳や肉類、卵黄、魚介類、レバーを摂ると、起きているときの代謝レベルを高め、それが睡眠中の代謝レベルを高めることにつながり熟睡が期待できます。また、カルシウムが不足すると神経伝達に支障をきたし、イライラや不眠の原因になります。カルシウムは牛乳や小魚類、海草類、アーモンドなどに多く含まれます。

●夜、おなかがすいてしまったら?
安眠のためには、胃腸に負担をかけない夕食の摂り方がとても重要です。寝る直前に食べると、睡眠中も胃腸は消化活動にあたらなければならないため安眠できません。従って夕食は3時間位前までに終えるようにします。とくに脂っぽい料理をたくさん食べると、胃がもたれるので注意してください。また、夜遅くまで起きていて、どうしてもおなかがすいたときは、消化がよくてカロリーの低い夜食を、就寝2時間前までに摂るようにします。

●よく眠れて快適に起きるための体操は?
現代人は、精神的な疲労が蓄積している一方、肉体は慢性的な運動不足であるというアンバランスが不眠の誘因になっているといわれます。運動で適度に体を疲れさせると、血行を促進すると同時に精神的なストレスを解消し、寝つきをよくしてくれます。柔軟体操やウォーキング、軽いジョギングなどが効果的です。寝る直前にハードな運動をすると、その刺激が就寝時まで残り、かえって寝つきを悪くするので避けてください。

ところで、睡眠の役割は、実は、体のためには睡眠全体の5分の1位で、残りの約5分の4は脳のための睡眠なのだそうです。少しくらいの睡眠不足では筋肉などの働きが衰えることはないけれど、大脳は睡眠不足に弱く、細胞の一部が壊れたり、適正判断が出来なくなるなどの影響がすぐに出るそうです。しかし、脳はそれらを自ら回復しようとします。それが「睡眠」なのです。

「世の中に寝るより楽はなかりけり」という言葉もあります。明日の為に、お酒を控え、適度な運動をし、そしてゆっくりお風呂に入って、「良い睡眠」をとりましょう。



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